Behavior Designってなに?

留学先の大学のセメスターは来週が最終週。こちらでデザインに関する授業をいくつか取ったのだが、日本でさんざん耳にしていたHCDHuman Centered Design)やUXデザイン(User Experience Design)という言葉はついに一度も聞かなかった。日本で学んだことのない視点からデザインについて学びたいという思いがあったので、期待どおりである。

 

前回も出てきたデザインメソッドについての授業で学んだことを共有したい。

最後の3週間は「Design for People」とテーマ設定されていた。見知ったテーマだなと思って参加したが、新しい言葉に出会った。「Behavior Design」だ。Googleで検索しても日本語のサイトはほとんど見つからない。

 

Behavior Design(ビヘイビアデザイン)とは、人々の振る舞い・行動をどのように変えるかという設計を表すのだそう。今まで学んできたHCDUXデザインの概念との違いを考えてみた。

HCDは人間中心設計と訳され、ユーザーの行動を観察したりテストを行ってユーザーからフィードバックをもらったりしながら、ユーザーにとってよいプロダクト・サービスとなることを追求するような設計を表す概念だ。UXデザインとはユーザーエクスペリエンスデザインの略で、プロダクトやサービスの使用にまつわる一連の経験の設計という意味を持つ。ユーザーにとってよい経験のデザイン、という意味で、HCDに非常に近い概念だと思っている。

Behavior Design、つまり人々の行動を変えるデザインもユーザー体験の設計の一部とも言えるが、基本のスタンスが少し異なっているように感じる。HCDUXデザインには「プロダクト・サービスを」ユーザーに「添わせよう」とする姿勢が感じられるが、Behavior Designは「ユーザーの行動を」「変えさせよう」という強い姿勢を伴っていると思う。

例えば新しいTo Doリストのアプリを作る場合。ユーザーは進捗に応じてリストを変更できるようなものを求めています、だからユーザーがどんな状況でどんな変更をするか具体的に考えて、それがスムーズに行えるようデザインをしましょう、というのがUXデザインのアプローチだ。一方Behavior Designの立場では、このアプリは進捗に応じてリストを変更することができます、ユーザーに変更したいと思ってもらえるようなきっかけ作りをし、ここの操作のハードルは下げましょうといったアプローチを取る。

あるアイディアからサービス・プロダクトを作り上げる場合、この後者のアプローチはとても大事になる。「使われていない空き家を旅人が借りられるようにしたい」というアイディアから生まれたのがAirbnbだ。「空き家を借りる一連の経験のデザイン」というアプローチだけを取ったのであれば、オンラインのホテル予約サービスと大きく変わらないデザインになっていたかもしれないが、知らない人の家に泊まる不安を取り除き予約をさせるため、ホスト自体へのレビューシステム導入という工夫がほどこされている。 

 

日本はそのものづくりの歴史から、改善を繰り返しよりよい品質のものを作ることに長けていると言われている。技術的な視点で品質改善を繰り返すばかりでなく、ユーザーに真に求められるものを追求することが大事だとされている今でも、根底には「よいものは人々に受け入れられる」「よいものは人々に使ってもらえる」という考え方が少なからずあるのではないかと思う。

しかしユーザーにとって新しいものを使うというのは、今まで慣れ親しんだことと異なる行動をするということ。どのように新しい行動をユーザーに取らせるのかという視点で使ってもらう工夫をこらすことでデザインは深まるのではないかと思った。