"機能的なデザイン"をさぐる
日本で北欧デザインの人気が高まっているが、その特徴は「シンプルで機能的である」と度々説明される。しかし、機能的とはなんだろうか?使いやすいということ?
この疑問の答えについてのヒントになりそうな、デンマークのプロダクトを4つ紹介する。
1つ目は、このサイドテーブル。日本では見たことのない形だが、デンマークでは一般的であるとデンマーク人の友人が言っていた。
ふつうのサイドテーブルに持ち手がついているだけなのだが、私はとても魅了された。頻繁に移動される、というサイドテーブルの特徴をよく捉えてデザインされているからだ。サイドテーブルをデザインしろと言われて、サイドテーブルにものが置かれている状況だけでなく、ユーザーがサイドテーブルを運んでいる状況まで意識をおよばせるのは、なかなか難しいことだろう。
2つ目はデンマークを代表するオーディオ機器ブランド、Bang&Olfusenのスピーカーである。
サイドテーブルとおなじく、こちらも持ち手のあるデザインが特徴。”どこでも”聞けるというポータブルワイヤレススピーカーの良さを、存在感のある皮の持ち手によって体現している。
(参照:
Bang & Olufsen | High End Televisions, Sound Systems, Loudspeakers - Bang & Olufsen
)
3つ目は、キッチン用品メーカーBodumのフレンチプレス式コーヒーメーカー。(厳密にはデンマーク人によるデザインではないらしいが、デンマーク製品の名高い代表例なので、Danish Designのアイデンティティをみとめよう。)
コーヒー粉と水をビーカー内に入れて一晩寝かすことで、長時間かけて抽出するというスタイルのこのフレンチプレス式。粉はフィルターで下に沈められているため処理をする必要はなく、翌朝コーヒーをそのままポットから注ぐことができる。
通常コーヒーを入れるときのような、抽出を待つびみょうな時間やフィルターの粉を捨てる手間が必要なく、コーヒーがたのしめる。粉のセットからできたコーヒーを注ぐところまで、この1つのポットだけで行えるという洗練されたデザインが、デンマーク人に広く受け入れられた所以だろう。
(参照:
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4つ目は、公園で見かけたこのベンチ。
公園の中央広場と遊具エリアの堺にあるこのベンチは、背もたれを動かすことにより、両サイドに座ることが可能だ。広場を見ながらゆったりとした時間を過ごしたいカップルは広場向きに、遊具で遊ぶ子供を見守りたい母親は遊具向きに、背もたれを動かし腰をかける様子が想像できる。異なる場面にすっと対応するこの工夫が私は大好きだ。
これらのプロダクトを私が「デンマークらしい」と感じるのは、これらがもつ共通した「自然さ」のためだと考える。
サイドテーブルやスピーカーは、メインとはいえない動作、移動までをも「自然に」行わせることを可能にしたデザインの例である。抽出したコーヒーを飲むという動作を、余計な手間を省くことにより「自然に」行わせているのがフレンチプレス式コーヒーメーカーだ。最後のベンチのデザインは、ユーザーにプロダクトを自分のニーズに「自然に」沿わせることを可能にしている。
一連の経験が、あらゆるコンテクストにおいて「自然に」得られるようなデザイン。これがデンマーク的な「機能的なデザイン」の一解釈となりそうだ。