デザインが育つ環境

デンマークに来てとても驚いたことの一つが、みんな「外」が大好きということ。

天気のいい日は昼間から校内の庭でビールを飲むし、街に出ても庭に席があるカフェやレストランがたくさん。授業課題のグループワークを芝生で座ってやろうよ~なんて話も出たりする。

 

話はかわるが、私にはお世話になっているデンマークの家庭があって、時々おじゃまをして夕飯等をいただいている。三角屋根で庭付きの、いわゆるデンマーク!という雰囲気のお家だが、中はもっとデンマーク的な暮らしの要素がつまっている。

ダイニングルームに下がっているのは、ルイス・ポールセンという有名照明メーカーの傘付きのランプ。どうやら一帯の家のダイニングには同メーカーのランプがあるのがふつうだそう。日本で買うとだいたい10万円ほど、豪華だけれど洗練されたデザインが美しい。

食事を取る時に使うお皿は、有名陶器ブランド・ロイヤルコペンハーゲンのものだ。自分の前にある青い花柄の素敵なお皿に、ご飯(奥さんが日本人の家庭なのでお米を食べる)やおかずをよそって食べる。何だかいい気分。

 

もう一つだけ違う話を。コペンハーゲン中央駅から40分ほどのところに、世界で1番美しい美術館と称されるルイジアナ美術館がある。海の望める広い庭をもった現代アートの美術館である。

小さい子供のいる家族からカップル、老夫婦、1人客の学生まで様々な人が、時々芝生で寝転んだりカフェでお茶をしたりをはさみながら、それぞれのんびりとアートをたのしんでいる。美術館に行く時の少しかしこまった感じは全くない。

 

これらの話に共通するのは、いいもの・美しいものが人々の生活に溶け込んでいる、ということである。庭や屋外で自然を感じることが、高級とされる品を使うことが、芸術に触れることが、彼らにとっては何てことはない日常のようだ。

日本では「鑑賞」という言葉があり、美しいものを外から眺めるような風潮があるように思う。日本の庭園は過ごす場所としてではなく見るものとして整備されてきた歴史があるし、日本の一般家庭にある高級なお椀はお祝い時や来客時にのみ使用されふだんは棚の奥に大事にしまわれている。家で美術を楽しむのはごく一部の人の趣味であることは言うまでもない。

対照的にデンマークの人々は、いいものを「取り込む」ことが得意なよう。ライフスタイルへのこだわりが強いから、という理由も大きいだろうが、いいものに対して物怖じしない強さがあるのではないだろうか。いいものを前に恐れ多くなってしまいがちな日本人と、いいものに近づこうとする好奇心と一種の自信のあるデンマーク人、そんな気質のちがいもあるように思う。

 

「ユーザーの声」は良いデザインにおける1番の材料だ。良いものを取り入れる文化があるのだとすれば、そこにユーザーの声が生まれ、結果より良いもののデザインに結びつく。そんなサイクルがあるように思う。

使う人がデザインを育てる。それが今回の気づきだ。